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2019年11月20日 三輪晴美 「毎日新聞」

空をたゆたう漆の金魚

 ころん、つるん。ふっくらと愛らしいフォルムで、思わず触りたくなる。近年、漆工芸がますます表現の幅を広げる中、笹井史恵の作品はひときわ異彩を放つ。 今秋、5年ぶりに個展が実現。高島屋日本橋・大阪店での巡回を終え、今月27日から同京都店(京都市下京区)で開催される。
 タイトルは「空のさかな」。「立体花鳥風月の金魚版です」と笹井は話す。日本画の伝統的テーマを、 乾漆技法で自由闊達に造形。月や太陽が浮かぶ空を金魚が気ままに泳ぐイメージだ。
 前回展では、桃などふくらみのある「実」をテーマとした。今展の出品作は「襲」や「結」 といった着物の伝統美を取り入れ、形作った。つるっとなめらかな質感に「稜線」が生む陰影の妙。 漆の魅力を極めた作品群は、笹井の自由な創意を写し、あくまで軽やかだ。竹工芸作家の四代田辺竹雲斎や 截金作家の山本茜とのコラボレーション作品も含め、大小50点が会場を飾る。
 現在、母校の京都市立芸術大学で准教授を務める。学生時代、専攻を漆に定めたのは「工程が多いから」。 漆作品はつけては研ぎ、を繰り返して形を決める。身近な自然や生き物に着想を得て、ゆっくりとイメージを 固める作家の手と心の動きが見えるようだ。その作品は、一貫して生命を謳歌する喜びに満ちている。

【三輪晴美】